路地裏散歩

特撮とかアニメとか感想と犬。

『仮面ライダーTHE FIRST』

 正直、第一報が報じられたときは「あぁ?!」って感じでした。「なんで?」って思いましたし、「今更?」とも思いました。本郷と一文字は、藤岡氏と佐々木氏しか居ないだろ、とも思いました。ぶっちゃけ、かなり懐疑的でした。
 ところがその後、TV版のリメイクのようなものではなく、原作版を下敷きにした物語であることを聞いて、かなり一気に気持ちが切り替わりました。原作版好きなんですよ。
 まさかあの関係をまんまやっちゃうわけには行かないだろうけど、原作版のテイストをどう料理してくるのかにものすごく興味が沸いたんですね。一文字役が高野八誠氏だったのも、興味が湧いた要因の一つだったことは否定しませんが。


 まずはOPで一気に血が騒ぎました。「レッツゴー!!ライダーキック」が掛かるとは思ってなかったんだ…!そして爆発をバックにジャンプするサイクロンで、心臓わしづかみ。ダメだ…!血が!血が騒ぐ!
 もう、純粋に画としてカッコいいし、美しかったです。

 ストーリーの方も面白かったです。突込みどころが無いとは言いませんが、そういうアラ的な部分を補って余りあるというか、アラが物語の芯に絡んでこないので、アラはアラとしてあるんだけど、瑣末なことというか。

 事前情報として、「恋愛映画」という側面があるというのだけは仕入れていたので、その辺に関しては違和感無く見られました。むしろ、本郷−あすか(−一文字)のラインでの物語と、晴彦と美代子のラインでの物語が、同じ極限状態にあっての愛でありながら、方や成就(というには先が辛そうだけど)、方や悲劇という対照的な結末を迎えるというのが、互いに互いを補完しあう形で効果的だったと思います。コブラ男とヘビ女の物語は、原作でも泣かされたツボだったので、そこをちゃんと丁寧に拾ってくれたのがまた好印象。
 あとは、キーとして本郷−あすかラインには「水の結晶」=「美しいもの」=「命」、晴彦−美代子ラインには「花」というものが一本通して有ったのも良かったですね。特に「花」の方は、『芽吹かない可能性もある』、『いつかは散ってしまう』という花の儚さが2人の関係にもトレースされていて、上手いなぁ…と。
 ところで、私は、井上脚本の恋愛ものってイマイチ苦手だったんですが、それは多分、本筋とは別のところで恋愛を絡めようとするから強調しすぎてクドクなるんじゃないかと、今回の映画でようやく思いました。『ジェットマン』がそうだったんですが、ストーリーの主軸に恋愛が絡むと、濃く描いて構わないので、脚本のアクの強さと、描写できる時間の釣り合いが取れるんですよね、きっと。
 ついでに、この映画を見て初めて『井上敏樹ってロマンチストなんだろうな』と思いました。はい。

 本郷と、あすか、そして一文字の関係は、最初の誤解と、異形の姿が似ているが故の錯誤が行きつ戻りつして、やきもきしながら見てました。誤解が解けるシーンが、心臓の鼓動がキーだっていうのも、ロマンチックで切なくてよかったです。リジェクションが起こらない、完全な改造人間として完成された本郷が肯定されたのが、その完璧に改造されてしまった鼓動だったってのが、泣けるじゃないですか。
 一文字は一文字で、気障ったらしくて実にいい味出してましたね。ドライブしてんのにシャンパンってのはいいのか?とか突っ込みもいれつつ。あすかの誤解を利用して、あすかの気持ちを自分に向けようとしたり、ちょいと姑息な手を使っていたりはするんですが、それがまた一途なところを強調してたりね。
 しかし、結局最後には「惚れた女のために命をかける」ことのできる本郷を認めて、本郷のために決戦場に戻っちゃったりして、気障を気取った熱い男だったなぁ。実に井上さんらしいキャラに仕上がってましたね。カッコつけて、熱さや泥臭さとは一番無縁な顔しつつ、その実誰よりも熱いってキャラは堪らん!

「知らなかったぜ。俺ってマジでいい奴だったんだな」
「だから言っただろ?」

 ここのやり取りがもう!もう!井上節全開…!燃えて燃えてしょうがなかったです。カッコいい…!

 晴彦と美代子は、終始切なくて、ずっと涙腺が緩みっぱなし。どちらも寂しい人生を送っていた2人が必然のように手を取り合い、殆ど叶わないことが解りきっている約束を交わすなんて、泣きツボ一直線ですよ。多分ショッカーに改造されたのも、2人で居られる時間をできるだけ長引かせたかった、その一心だったのだろうと。その為には身体を改造され、悪事に荷担することになっても構わないというほどの想いというのが、切ないです。
 結局、2人の身の上には破滅が降りてくることは、見てる側としては解りきっているのだけども、できればそこに救いがあって欲しいと思わずには居られませんでした。最後のガーベラ一輪は、少しは晴彦の救いになったんでしょうか。

 ストーリーとしては、結局本郷があすかを助け出しただけで、それ以外には救いといえるものは殆どない訳なんですよね。ショッカーという組織を根絶したわけではないですし、本郷はこれからもショッカーに狙われるのだろうし、一文字はリジェクションが頻発していくであろうことを考えると恐らく…でしょうし。晴彦と美代子には破滅が待っていて、さらにこれからもショッカーやその息の掛かった組織が平和を脅かすのでしょう。
 物語の中でカタがついたのは、改造人間候補として捕らわれたあすかを、本郷が助け出しただけ。だから、カタルシスが有るかといわれると、ちょっと肩透かしもあるラストだとは思うのですが、私はこれはこれで凄く好きなラストだったりします。そういえば、似たテイストで終わるといえば『555』の『パラダイスロスト』なんかもそうなんですが、こっちも好きなんですよね。大団円じゃない。むしろ破滅に向かうしかないのかも知れないけれども、そのなかで懸命に生きていこう、戦っていこうとする者たちの背中が好きなのかも。
 でもその中でも、本郷は改造人間になってしまった自分を、あすかを助け出すということである種肯定できたのだろうし、『命を守りたい』という重いが明確化したということは、この後恐らくショッカーとの戦いに足を踏み入れていく決意にもなったのだろうと思います。
 派手さは無いですが、地味に熱いラストだったと思います。

 熱いといえば、アクション&マシーンですね。ワイヤーを使ったスピーディーなアクションは、最近はよく使われているしおなじみのものなんですが、ライダーとか戦隊といった、どちらかといえば戦闘自体が様式美化している東映特撮においては、珍しいんじゃないでしょうか。ライダーが余りごてごてとした装飾をつけず、身一つで戦うこの作品においては、戦闘そのもので魅せるという部分でものすごくはまっていたと思います。カッコよかった〜!
 しかもラストのバトルシーンでは、技名を叫ばなくても何の技を使ってるか解るんですよね。本気で拳握って観ていた人がここに一人。

 立花藤兵衛が、どうしてあのサイクロンを開発していたのか、本郷との関係は、とかいうのは突っ込まないで観てあげるのがきっと正しいのでしょうが。もうちょっとだけ説明してくれても良かったかも…とか思います。
 えーと。ミスター”番組乗っ取り”こと宮内洋氏が演じるってんで、主役が食われやしないかと、結構ドキドキしていたりしたんですが、当たり前ですが、そんなことも無く渋い役どころできっちり締めてくれたので良かったです。

 あと、2号用のサイクロンをどこから持ってきたんだってのも突っ込まないお約束。2台そろって海面から飛び立つサイクロンを見たら、そんな細かいことどうでもいいです。あの画面の迫力はもう、ものすごいものがありましたね。やっぱりクレーンで吊って撮影したんだそうで…。
 CG技術が幾ら進んでも「そこにものがある」という実存感には適わない、と思ってるのもあって、燃えツボにずっぎゅんですよ。あ、でもCG全部を否定してるんじゃないんですよ。使いどころってあるよね、って話で。
 あと、白いクルーザーで乗り込んで行っちゃうのが、妙にノスタルジックでこれもにやりと。

 先にも書いたとおり、突込みどころはそれなりにありますし、きれいにまとまってはいても決して救いのあるエンドじゃないんですが、私はかなり好きでした、「THE FIRST」。