路地裏散歩

特撮とかアニメとか感想と犬。

【小説】仮面ライダーキバ

 本編のメインテーマの抽出再構成系ですね。それを恋愛小説な味付けで上手くまとめて、キバのきれいなところをきれいにぎゅっと濃縮したって感じ。小説アギトのときも同じ事を言ってましたが、オリジナル要素の入る割合が多め且つ、まとめ方も大分テレビからはずれているという意味では、より555「異形の花々」に近い感じかな。
 ただ、今回はキバ自体がもともと恋愛要素が多めだったのと、1986年と2008年で多重構造になってる分、印象そのものはテレビのキバに近くて、そういう意味では「異形の花々」感は少ないかな。

 比較対象が全て「異形の花々」なのもどうかと思いますが(笑)閑話休題

 テレビでは親から子へと受け継がれる魂と、異種族の融和という部分を二本柱で扱ってたけども、一冊にまとめるに当たって「異種族 の融和」の方をクローズアップしたんですね。テレビではそこが絡み合っていた分、父から子へ受け継ぐもの、父を超える子、そして融和へという流れのファクターとして太牙が渡の対として用意されてたわけだけども、今回はここがまるっと解体されてる。つまるところ、兄さん出てないよ!兄さん出てないよ!!太牙ファンです、泣いてない。
 いやうん。発売前から、渡と音也、恵とゆりという二組の親子を軸に持ってくるのかな、それなら太牙はオミットされるな、とか思ってたのでね。うん。

 まずは、渡があの年まで一人で生きてこられた理由とか、この世アレルギーの意味づけとか、静香ちゃんが渡と知り合ったきっかけだとか、テレビだとさらっと流されたり言及されてなかったところに触れてて、すごい楽しかったですね。特に静香ちゃんが自分を渡の母親みたいといってた、そこに至るまでの気持ちの流れがなんか解るわー解るわーっていう。静香ちゃんの年齢設定が3つくらい上がってるので、それで余計自然に感じる部分もあったかな。

 「ゆり-音也-真夜」と「静香-渡-深央」の対比がとてもきれいでね!音也は真夜を選び、渡は静香を選んだんだけども、どちらも自分が自分のままであることを許してくれた人の方を選んだんですよね。その相手が音也はファンガイアの真夜であり、渡は人間の静香だった。それはつまり、相手が自分とどれだけ違う存在であっても「人」として向き合い関係を築くべきということだと。
で、そのテーマは結局この小説の人間とファンガイアの関係そのものにも拡大されて適用される、と。そこからはみ出してしまったのが名護さんで、ゆえに名護さんは滅ぶしか道が残されてなかったのだよな…と。

 結果的にファンガイアも人間も変わらない、ただ理不尽な暴力から弱いものを守りたい、と思った渡と、ファンガイアは人とは違うすなわち悪である悪即断!になってしまった名護さんとは、これはもう完全に対称の関係ですよね。彼の正義が醸成されるまでの過程もテレビとは似て非なるもので、名護さんが思いつめちゃうのもわかるけど、やっぱり極端にも過ぎたわけで、なんとも言えずどうにかしてどこかで止まれなかったものかなぁ…と思う。この「止まりどころがなくて、結局暴走する余りに命を落とした」という部分が、むしろ映画の白峰さんが入ってるんじゃない?と思うわけですが、どうでしょうね。

 全体的に、とにかく美しい。容姿の描写が多くてそれがロマンティシズム溢れる感じなのもそうだし、演奏のシーンがまた美しい。
 食事シーンはセックスシーンの代わりなんつうて言われることもある井上脚本ですが、今回は古怒田さんの趣味なのか、音楽の演奏シーンがセックスシーンの代わりなんだろうなぁ。真夜と音也が二人で演奏するシーンのエロティックなことといったらもうね!読み終わったら溜息出ちゃったよね。
 一方でバトルはちょっと少なめなので、その辺を期待してる人にはちょと物足りないだろうなーと。実際自分が物足りない(笑)

 そしてな!とにかくな!次狼さんカッコいいから!野性味溢れる教養関係にも造詣が深い良い男だぞ!そりゃ女がほっとかないわ!ただちょっと渡とのつながりが希薄&突然だったせいで、渡にはかなり重要度の高い問題がやや流されがちに終わっちゃったのはちょっと残念かねえ。

 前半がかなり丁寧に物語を進めていたのと対照的に、正直後半はかなり巻きが入ってて、もうちょっと余韻をもって読みたかったなぁと。もったいない!もったいないよ!せめてあと20ページ!

 つうことで、個人的には大満足でしたが、太牙(他にも色々)いないし、名護さんは死亡だしで、胸を張って誰にでもオススメできるわけでもないのが、とてももだもだします。もだもだ。嫌な人は、そういうの絶対嫌だよね…うーむ。