路地裏散歩

特撮とかアニメとか感想と犬。

映画『GOD SPEED LOVE』


いつもなら事前情報をある程度仕入れてから観に行くのですが、今回は殆ど情報を仕入れずに観に行きました。「GOD SPEEDS LOVE」というサブタイトルが正直恥ずかしくて、詳細を知るのが怖かったというのもありますが。「仮面ライダーTHE FIRST」の件もあるし、ライダー映画と恋愛ストーリーが馴染まないものと思ってはいないんだけど、直球で来られるとちょっと恥ずかしいんだよう。


いやもう、とにかくひよりがね!ひよりが天道と何らかの関係があるだろう、というのはテレビ版でも匂わされている通りなのですが、そうか妹か!そしてひよりと付き合っている加賀美がまた、実に加賀美らしくて可愛いこと可愛いこと!「俺とバッテリーを組んでくれ」ってプロポーズ、可愛いなぁ、おい。
ひよりが、テレビとはちょっと違って割と素直に感情を表現したりするのが、また良いんですよ。オチを考えるとパラレルワールドということになる(少なくともテレビと同一の人ではない)のでしょうが、渋谷隕石のことが無ければテレビでもこんなひよりが存在しえたかもしれない、という感じでじんわり。加賀美×ひよりが可愛くて哀しくて!天道と加賀美の間にあるのは、熱い友情もしくは、大切なものを失った同族意識(これは加賀美から一方的に、かも知れん)かな。たまらん。
その意味で好きなのは、2人で軌道エレベーターに向かっていくシーン。あのシーン、同じく大切な者を失った者同士だというのに、加賀美が黒一色で弔いの装いだったのに対し、天道が白一色で再生を想起させる色合いだったのが象徴的。ラストシーンをかんがみると、天道はまさに地上に降りた最後の天使って奴ですね。君の瞳は100万ボルト!


映画限定ライダーは、どれも格好よかった!
正直、ヘラクスはもうちょっと出番というか見せ場があっても良かったんだけどなぁ。後述しますが、バトルシーンが全体的にイマイチだったので、そのせいで割り食った感じですね。変身前の織田くんがいいキャラだっただけに惜しい。後は、天道にあそこまで肩入れする動機がちょっと弱いように感じたので、その辺ディレクターズカット版で補完してくれると良いんだけどなぁ。
ケタロスは、大和の渋さとあいまって、めっちゃめちゃ素敵だった!色も銅色なのが実に好みで。あの右ひじを高く上げた構えがすごくスマートで好き。大和のキャラも組織への愚直に見えるほどの忠誠が、一本芯の通った性格という、ちょっと武士道っぽい感じが良かったです。加賀美パパと三島の考えを大和は知ってたのかなぁ。知っていてそれでなおZECTに殉じたのだとしたら、それはそれで凄い漢気を感じます。その忠誠が哀しいけど。
そしてコーカサス。次郎さんライダー!ハラショー!…違くて!いや、私的には間違ってないけど!本職の役者さんじゃないってことでちょっと演技に心配もあったのですが、不気味さや得体の知れなさがものすごくて、この人以外の黒崎は考えられないですね。ちょっとだけ『ガラスの仮面』を思い出したけど。紫のバラだけに。どうせ動ける人を連れてきてるんだから、生身のアクションをもうちょっと見たかったですねぇ。次郎さんってことで集中してたせいもあるけど、変身後のアクションばかり印象に残ってます。気密ハッチに閉じ込められてドアを叩いているときの後ろ姿とか。(こら) 人型の敵としてはラスボスなのに、ちょっと強い印象が弱くなっちゃって、ちょっと寂しい。


映画キャラといえば、最重要の北斗。『東京BABYLON』のせいで、北斗は完全に名前だと思ってました。「修羅 北斗」のが可愛くね?いや、自分の趣味ですが。
龍騎のめぐみちゃんは余り好きじゃなかったんだけど、今回はクリーンヒット!ファミ劇で「刑事フェス」のCMキャラクターやってたときもそうだったんだけど、制服とかワイルドっぽい服とかのりりしいイメージの方が似合うんじゃないですかね。
何らかの取引で裏切ったのか、もともとスパイ目的だったのか気になります。矢車さんが大和さんに「その件お前に任す」とか言われてるシーンがあるんで、後から裏切ったんじゃないかな〜とは思ってるんですけど。
一度は仲間と呼んだ人間を裏切ったというのに、その相手にも裏切られて、結局自分が痛めつけた天道しか頼るものが無くなってしまった彼女は切なかったですね。


ちょっと新鮮な感覚がするのが、映画とテレビ本編とで相互に補完しつつ、それぞれの世界観を深めて見られるというところです。テレビ本編と完全に繋がるとは言いませんが(大分遊びも残してあるし、最終的にカブトが救ったことになる「被害の小さいラストの地球」がテレビとはまた違う世界になる可能性もあるので)、現時点でも『繋がったことにして』楽しめるんですよね。
この感覚で見ると、テレビ版が一味変わって見えて『一粒で二度おいしい』状態ですね。
映画で「お兄ちゃんに料理を食べて欲しかった」「不味かったら承知しないぞ」というセリフがあり、テレビの「この言葉を言うのはおばあちゃんに続いて2人目だ。…うまい」に続くのがものすごくじんと来るし。ひよりが描いていた妖精の絵はハイパーカブトなんだろうし。オープニングの画面も歌詞も、やたら示唆的です。他にも、挫折を知らなかったっぽい映画矢車がテレビで挫折を知ったり、風になりたかった映画風間がテレビでは風のように自由に生きていたりね。
天道が加賀美に対して言う「おもしろい奴だ」とか「お前は友達じゃない」というセリフも、映画のあの2人を下敷きにしているんだと思うと、なお一層ドキドキします。そんな「時を越えて再びめぐり合う」なんて、なんて少女マンガな!でも、燃え。


それにしても、妹を助けるついでに世界の滅亡も回避してしまった天道ってのは、まさに『天の道をゆき全てを司る』男ですな。
以前テレビ9話の感想で

天道はあそこに居たのが誰であっても助けたんでしょうね。前回、影山を助けたのも「失敗した」と思っているのではないかと書いたのですが、だからこそ、今度は誰かを傷つけたくはなかったのではないでしょうかね。


とか書いたのですが、あの映画のエンディングを見る限り、この解釈も間違ってない気がしてきました。もしあのラストがテレビ版の世界に繋がるとするならば、ある意味で天道は今のテレビ版の世界の救世主な訳で、そうすると一度その手で助けたものを再び傷つけることは天道にはできなかったんではないかと。ちょっと強引過ぎか。


エンディングの天道、加賀美、ひよりがもう、ものすっごい好きで!ひよりがちょっと明るかったりするのでテレビと繋がらないのかも知れないし、もしかすると全てがうまく片付いた、テレビ本編の後ということかも知れないのですが、そんなことは置いておいてあの3人が大好き。いつまでも3人でじゃれじゃれと仲良くしていればいいさ。ああそうさ。
あの絶望的な世界の展開を見ているからこそ、(劇中人物に記憶は無いとはいえ)「よかったね、今度は幸せにね」と思ってしまうんですね。


以上、総体的には満足です。天道のちょっともろいところも見られたし、加賀美とひよりのストーリーもかなりぐっと来ました。ちくしょう、泣かすなよ!


ただ一方で、テレビ版を知らないと余りにも脳内補完が辛い部分や、大目に見られないという部分もありました。
基本的にはテレビの基本設定を知らないと楽しめないという部分は、他の平成ライダー映画も同じことなのですが、物語のかなりキーになる部分に関わっていたのでちょっと辛かったかも。「補完できる材料は用意したから、後は自分で考えてね」という、ちょっと突き放したスタンスがあった感じ。子供向けなんだし、もうちょっとベタに説明してくれてもいいと思うんだけどな〜。


一番考え込んでしまったのが、加賀美父と三島の計画の辺りですね。ちゃんと考えてみればワームは人間に擬態して、その記憶や生活様式を手に入れる事も可能な訳で、つまり「ワームの中で生き続ける」というのは「せめて記憶だけでも生きながらえよう」というセンチメンタリズムと受け取れるのですが、初見ではよく解りませんでした。「ワームの中で生き続ける」ってのが、どうも「どうせこのまま全滅するなら、壮大に自滅しよう」みたいにしか見えなかったんですよ。
何でかと思ったら、「ワームが擬態する」という特性は、あくまでテレビからの情報でしかないんですよね。映画では触れられていない。それでよく解らなかったのかと。その辺は時間が足りなくて描写できなかったのか、そもそもシナリオになかったのかは知りませんが、もうちょっと親切にしてくれても良かったかも。


テレビ版からは思いっきりかけ離れた世界観の元でやってる平成ライダー映画というのは555に続いて2本目なのですが、それにしては導入が不親切だったなぁ、と。もっとも、555は「テレビ版の世界で、オルフェノクが台頭しちゃったら」というIFの部分が地続きというのがあるから解りやすくしやすかったのかも、と思いますが、それにしても、最初の方は劇中の世界観を理解するのに必死でストーリーが大分飛んでます。後半になってくると補完が利いてくるんだけど、物語に入り込むまでがちょっと辛かったですね。2回目に見たときは解ってるんでするっと入れましたが。
あと、ものすごいカタストロフが起こった世界だって言うのに、一般人の生活は割と普通に営まれちゃってたりする辺りにも違和感が。ZECTが水を配給してるシーンがあったから、「それだけのカタストロフがあっても人類の生活基盤を支えられるZECTすげー!」なのかもしれないですが、それにしては説明が弱かったような。
Salleは普通に営業してるし(おそらく水に関するであろう断りの張り紙やら、料理の材料が配給っぽい缶詰だったりはしてたけど)、お客さんたちもごくごくきれいで普通の格好をしているし、病院も普通に開業してるっぽいし。病院はまあ、人命に関わるから、ということで優先的に水やら電力やら供給されているにしても、Salleはなぁ。


あと、ネオゼクトのメンバーが、なぜZECTに反旗を翻したのか、がかなり謎。多分、「ZECTという組織があって、それに反旗を翻した組織がある」という対立構図が必要だっただけで、そこに意味づけは特にいらないという判断だったのかな〜と思うのですが、ちょっと落ち着かない感じがしました。
全体を通して、物語とか世界感の表現と、そこに巻き込んでいく強引なパワーがちょっと欠けていた、という感じでしたね。


映像としては、全体的に「静」の印象が強かったですね。冒頭の夕日を背負った天道といい、織田の最期とか静のシーンでは唸っちゃう演出が随所に見られました。特に織田の最期のシーンはすげーよ、あれ!情感もあるくせに、乾いてる。一滴だけ落ちてきた血が、ものすごい圧迫感を生んでました。
反面「動」の部分がないがしろにされていた感は否めず…。正直、バトルシーンで記憶に残ってる演出がないんですよ。今までのライダー映画は、必ず戦闘シーンで1シーンは記憶に残ってるシーンがあるんですが、今回に限ってはどうもピンとこない。カブトに限らず、ガタックもザビーも印象薄いんですよ。ガタックコーカサスのキックからカブトを庇うという見せ場がありましたが、ザビーは…。矢車の死に様は印象的だったけどね。
久しぶりに次郎ライダー見られたのは嬉しかったけど!アクションとストーリーを両立できるのはFIRSTで証明済みなんだし、それはちょっと頑張って欲しかったところ。


あとは…すげー些細なことでなんですが。
ZECTのあの片マントな格好。正直、大和と田所くらいしかサマになってなかったような…。あとみんな、衣装に食われてたっていうか…。あ、黒崎も別格ね。三島でもちょっと浮きかけてたもんな…。


全体的に何度も見て、ついでにテレビとも見比べてみて、じわじわじわと旨みが湧いてくる、スルメのような映画だと思いました。